水牛のお肉
- 配信日
- 2017.09.26
- 記事カテゴリー:
- 第一巻 湖水地方レポート
水牛の仔牛で、オスが生まれたら、今は、肉用に育てて食べてもらう。
でも、水牛を始めて3年半、当初は手の打ちようがなくて、獣医さんに頼んで薬殺した。
事情は、こうだ。
オスの仔牛が生まれたら、初乳を飲ませてから売るか、あるいは、自分の牧場で去勢して、15か月から25か月くらい育てて、屠場に持ち込み、肉にしてもらって食べる、あるいは、販売する。これが、ホルスタイン酪農家の普通の手順だ。
ところが水牛の場合、屠場が受け入れてくれない。
一般的な牛は、ウシ科ウシ属。水牛は、ウシ科アジアスイギュウ属。動物というものは、属が違えば交配できない。つまり、まったく違う動物だ。牛の屠場は国が管理しており、ウシ科に関しては、ウシ科ウシ属を対象にしている。アジアスイギュウ属が持ち込まれることを前提としていないから、現場は自動的に、「受け入れられない」と対応する。当然のことだ。
農林水産省に問い合わせたところ、鹿と同様に対処してくれ、と。つまり、ジビエだ。鹿の屠場なら、北海道にはたくさんある。ところが、調べてみると、鹿は巨大なオスでもせいぜい200kg前後だ。屠場では、屠殺したのちに、吊るして加工する。鹿の屠場では200kgくらいの荷重に耐えるリフトはあるが、ウシや水牛はゆうに500kgを超える。理屈に合わない。
国家戦略特区のフードバレーとかち事務局に、屠場の規制緩和を申し入れた。やります、と言ってくれた。ここから先は、待つしかない。十勝が水牛産業に対して優遇、あるいは、規制緩和すれば、今後、水牛酪農に着手する人は、十勝に来ることになる。新しい地場産業として育つだろう。その点を理解してくれるように話した。
湖水地方牧場の隣の大津に、ジビエで有名なエレゾがある。渋谷の松濤に一軒家のレストランを持つなど、主義主張を貫く展開をして、予約が取れないので知られているらしい。食材の川上からすべて、エレゾが一貫した生産体制を作っている。水牛の話を持ち込んだら、試してみたいと、2頭、引き受けてくれた。吊れないから、加工場の床に寝かせて加工したが、手間が大変だった。
エレゾとは引き続きお付き合いさせていただくが、こちらでできることで、もっと根本的な解決を考えなければ、事業にならない。そこに、水牛の肉事業をやらせてほしいと話が舞い込んだ。天塩方面の事業家だ。それなら、仔牛で販売して、肉になったら一部を買い戻させてもらい、加工して販売するという手順が踏める。
中標津方面に、かつて牛の屠場だったが、今はジビエをやっている加工場もみつかった。そこなら水牛でも吊れる。
それで、ようやく肉牛として育てる気持ちになって、育てたのが下記の写真の4頭だ。バイオダイナミック農法で有名な、ソフィアファームに育成を依頼した。20か月近くたって、初夏に戻ってきた。10月初頭には、例の水牛肉事業家の農場に移動する。
写真には5頭いるが、左端は種牛第2世代の「山崎」。湖水地方牧場では、水牛にもブラウンスイスにも、それぞれ名前がつく。なんとなく風貌が「山崎」だということで、なんとなく山崎になった。ザキヤマではないと思う。山崎はその後も湖水地方牧場に残って、百発百中の仕事に専念してもらう。