チーズの官能評価
- 配信日
- 2017.10.14
- 記事カテゴリー:
- 第一巻 湖水地方レポート
10月13日、公益財団法人十勝財団食品加工技術センターで、「十勝圏ナチュラルチーズ品質管理研究会」が開催され、参加した。主題は「チーズの官能評価の実際」である。
十勝財団食品加工技術センターは、一昨年までの2年間、水牛ミルクに関する共同研究を行った相手で、北海道が設立した、公共の食品産業育成に協力する機関だ。
わざわざ「十勝圏ナチュラルチーズ・・」と称しているのは、一般に、大手乳製品メーカーが製造するチーズはプロセスチーズと称して、乳酸菌を滅菌してあるからで、湖水地方牧場などが作るチーズは、乳酸菌が生きているからナチュラルチーズ。
欧州人は、「チーズはナチュラルに決まっているでしょ」と反応するだろうが、日本は常識が少し違う。微生物を殺してしまったプロセスチーズは、脂肪とたんぱく質の塊だ。しかし保存性は極めて高い。チーズ普及には必要な段階だったのだろう。でも本来、チーズの役割は、微生物叢を体内に供給することにあった。
日本では、発酵食品は無数にある。味噌、醤油、漬物、干物・・・あげていったらキリがない。でも、欧州では乳製品の発酵食品が、人の健康維持にとても重要な役割を果たしてきた。ここから先は、新得町で協働学舎を営む宮嶋望さんの著書を読んでもらった方が良いので、端折るけれど・・・
さて、この日の講師は、十勝品質事業協同組合で熟成士として働く田村佳生さんだ。十勝の複数の工房が作るラクレットを買い取り、熟成させて販売する。様々な条件下で作られるラクレットチーズの品質を一定に調整して出荷するに際して、様々な技術を工夫する。今日のセミナーでは、チーズプロフェッショナル協会が採用している評価基準を展開して、官能評価を繰り返しながら、熟成士として、製造元にアイデアを還元する過程を聞いた。
何か月か前に湖水地方牧場を訪ねてきて、一緒に、湖水地方のモッツァレラチーズを食べた。「ラクレットは設備とシステムによる製造技術だが、モッツァレラチーズは職人の手仕事だ」と私は言ったのだが、なんだか失礼なことを言ったような気持ちになった。熟成士の仕事は、実に複雑で専門性が高い。
湖水地方牧場では、地元の晩成温泉に湧くヨード泉を使って、ウォッシュタイプのチーズができないかと思案している。そこで、田村さんに相談したところ、作業として3段階あると。まず、ヨード泉で食品をウォッシュしても大丈夫かどうか、保健所と相談して了解をもらう必要がある。第二に、どんなウォッシュタイプをめざすのか、チーズの原型を試作する、最後にウォッシュの技術の確立だ。
さっそく、保健所に問い合わせたところ、保健所を落としてくれ、と。つまり、ヨード泉そのものが食品ではないので、かなりグレーな扱いになる。このヨード泉でウォッシュしても、チーズに悪質な化学物質などの要素が残存しないことを証明して、保健所を納得させることだ、と。
これを踏まえて、十勝財団食品加工センターに問い合わせたところ、まず、温泉成分を調べて、飲用に適するかどうかを押さえてくれ、その分析を踏まえて、次の作戦を考えましょう、と。
晩成温泉は大樹町の資産だから、大樹町の課長に、成分分析データを問い合わせたところ、ある、という。これからそのデータをもらいに行ってくる。来週は、そのデータを、十勝財団食品加工センターと保健所に送り、相談開始である。 2017.10.14