ワイズユース/wise use
- 配信日
- 2017.10.07
- 記事カテゴリー:
- 第二巻 湖水地方自然博物館
ラムサール条約、あるいは、ラムサール会議という文言は聞いたことがあるでしょう。湿地の保全を目的とした国際会議だ。その国際会議の基本的な理念が、ワイズユース。湿原環境の保全を必要とする産業を企画経営することで、人間活動と自然環境は、win-winの関係として共栄できる、と考える。
これはいまから5年前の平成24年に、ルーマニアのブカレストで開催されたラムサール条約会議の会議場だ。私と共同で、一般社団法人湿原研究所を設立した辻井達一氏が、ラムサール条約賞を受賞するというので、二人でブカレストに旅をした。会議場では、世界各国の代表者を前にして、議長は、Excellenciesと呼びかけて、条約の内容の改定案などを議論する。
先進国は、自然環境汚染によって国が疲弊するという経験を積んできているので、発展途上国に先進国なみの自然保護条件を共有するように求める。発展途上国は、自然からの収奪によって生命を維持している国民を代表して、先進国を横暴だと非難する。少しずつ相互理解を深め、折り合いをつけていく。
湖水地方でワイズユースの理想形を追い求めよう・・・私がこの地域にかかわるようになった経緯だ。日本のラムサール条約会議座長を長く務めていた辻井達一氏と、当時、十勝海岸湖沼群と称されていた、打ち捨てられた、しかし、だからこそ自然環境経営に着手するのに相応しいこの地域を、その対象としようと考えた。
地域経済に参画しなければ、ただの評論家だ。海霧があがり、穀物などはほとんどできないこの地域は、草しか生えないと言われる酪農地帯だ。それならば、湿原を象徴するように、湿原動物である水牛をやろうぜ・・・と辻井氏は提案した。南イタリアで近代酪農として立派に経営が成り立っているのだから、日本でもできるだろう。熱帯の動物だと思うかもしれないが、水牛産業が成長しているのは、ドイツ、イギリス、スウェーデン、カナダなど、北海道よりも冷涼な国々だ。大丈夫だ、できる。
辻井達一氏は、ラムサール条約会議の翌年の正月、81歳で急逝され、私はその事業を一人で推進することになった。湖水地方を経営するという構想を、大和ハウス工業創業者一族で元社長の石橋信康氏に話したら、「土地を買え。その地域全部買ったら幾らだ」と聞くので、100億かな・・・と言ったところ、「なーんだ、100億か」と。それ以来、保全に必要な土地を買って、社会資産として後世につなぐ・・・ということを計画とした。
一つずつ貴重資源である土地を買って、その総和を、生きた自然博物館とする。それを、やってみよう。博物館の経営をどうするか・・・まずは、湖水地方牧場で卓越した乳製品を作って、心ある人に食べてもらって、その収益で動き始めよう。
湖水地方牧場設立の経緯とは、そのようなものだった。 29.10.7